ブックデザイナー(装丁家)坂川栄治さんの新刊『本の顔』(芸術新聞社)が送られてきました。
サブタイトルは「本をつくるときに装丁家が考えること」。帯には、ピースの又吉さんがコメントを寄せています。
ひと言でいうと、坂川氏の「装丁(デザイン)の舞台裏」といった感じの本です。

 坂川さんの装丁といえば、吉本ばなな『TUGUMI』や村上春樹訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』、『ソフィーの哲学』などベストセラーも多く、本好きな人でしたら、自宅の書棚に必ず1冊はあるかと思われます。

本の顔 今から6、7年くらい前、私が出版社(エレファントパブリッシング)を始めたころのことです。

『マファルダ』の装丁を坂川さんにどうしてもお願いしたく、乃木坂の事務所にお伺いする予定でした。ところが打ち合わせ当日、乃木坂の坂道を歩きながら、だんだん依頼したことを後悔してきました。

 確かに、以前は某出版社勤務の編集者として何度も装丁を坂川さんにお願いしていましたが、しかし、退社した今となっては、「もう某出版社の肩書きはないし、坂川さんに迷惑じゃない?」と。

 そんな気持ちで少し緊張しながら、坂川さんと久しぶりに面会しました。でも、坂川さんはいつもと同じようにノートを広げ、冗談を言って笑いながら、「マファルダ」の装丁を快く引き受けてくださいました。

 そして、カバーデザインが上がってきたときの感動は今も忘れません。とても感謝しています。

 この本の中では、『マファルダ』の装丁が出来上がるまでのデザイナー坂川氏の思考過程を描いています。タイトル文字、イラスト、彩色について。おまけとして、担当編集者(私)のコメントも掲載されています。機会がありましたら読んでみてください。もちろん、『マファルダ』の装丁だけでなく、他の素晴らしい本に関しても、たくさん解説されています。

 デザインのことだけでなく、カバー色校正の実物やデータ作成、用紙の選び方など、細かい情報も入っています。これはとても貴重ですね。私の場合は、デザインの依頼を繰り返しながらなんとなく知識を身につけましたが、もし新人編集者のころ、こんな本があったなら、あんな失敗や苦労をしなかったのに……と思いました。

 将来、出版の編集やデザイン方面に進みたいという方には、特におすすめします。装丁論のような本はいくつかありますが、書籍デザインの具体的な考え方やその過程をここまで公開した本はありません(と思う)。

 装丁家が変われば、本のイメージは変わります。同様に編集者が変われば、本のイメージも変わります。この本を読んでいただければ、その理由もお分かりいただけるのではないでしょうか。「電子書籍になれば編集者(出版社)がいらなくなる」との見方もありますが、私はそうではないと考えていますが……。

 以下に、坂川さんが装丁した本のいくつかを紹介いたします。単行本がなく、文庫本しか手に入らないものもあります。文庫になったときに若干デザインが変更されていものもあるようです。装丁はもちろん、どれも素晴らしい本ばかりです。

 私が装丁買いしたのは『フーコーの振り子』、中身はちょっと難しかったけど。このカーバーの絵を借りに坂川さんは、大阪外語大学まで行ったそうですよ。こんな素敵な装丁の本を一生に一度作ってみたいなぁ~と今でもそう思っています。